先日造影CTを受けた。
肝臓に腫瘤があると、腹部エコーで指摘を受けたからだ。
結果は肝血管腫。方針は1年ごとエコーでの経過観察。
その結果にほっと胸をなでおろしたわけだが、今回初めて医療者目線ではなく患者さん目線で造影CTを受けることとなり思うところがあったので、忘れないうちに記録に残しておこうと思う。
健康診断で肝機能障害の指摘
流れはこうだ。
健康診断で肝機能障害が指摘された。
よくある話。私は太っているから。どう考えても脂肪肝。
ただ一応病院を受診するように指導を受けたので、勤務先の病院を受診した。
そこで採血を行い、腹部エコーを行うよう消化器内科の先生から促された。採血結果には異常はなかった。
予定通り腹部エコーを受けるため超音波検査室におもむく。
大きめのプローブに、人肌程度に温かくなったゼリーをつけ、担当の先生が腹部エコーを開始する。
最初こそくすぐったいが、次第に慣れていくのがわかる。
私は腹部エコーをほとんどおこなったことがないのでわからないが、心エコーを定期的に行っている経験からおそらくルーチン通りに腹部エコーを行っていると推測できる。その途中でよどみなく動いていた手が少し止まる。
とある部位を念入りにチェックしているように見えた。
「今まで肝臓になにか指摘されたことってありますか?」
と突然声をかけられる。
「ありません」
「そうですか」
検査に戻る。その後も検査は続いていく。
自分自身が腹部エコーを行うわけではないので、どのくらい時間がかかるのが一般的かはわからない。
ただ声をかけられてからというもの、若干長く感じられた。
「お疲れさまでした。」
という声とともに検査が終わる。その後エコー室で体のゼリーを拭いている時に
「脂肪肝はあると思います。あと肝臓に腫瘤がありますね。おそらく肝血管腫だとは思いますが。」
正直ドキッとした。肝血管腫だとは思いますが、という言葉はもちろん鼓膜に届いていたものの、前者の言葉だけが妙に脳にこびりついていた。
「肝臓に腫瘤があります…」
外来にて
外来に戻る。先生と相談する。
「肝臓に腫瘤があって、肝血管腫疑いです。このままエコーフォローを行うという選択肢もありますし、初めての指摘なので造影CTで精査することもできますが、いかがされますか?」
悩む。悩む。悩む。
おそらくリスクや年齢などを加味しても、悪性の可能性が低いであろうということは頭ではわかっている。ただもしも悪性だったら?
その時に腹部エコーのみでフォローにした今の自分を、未来の自分は後悔しないだろうか?
悩んだ末にこう答えた。
「一応造影CTをお願いしたいです。」
「わかりました。」
そう言って一番直近のところで造影CTをお願いする。
造影剤の同意書に名前を書く。
普段は説明医師のところに名前を書くわけだが、患者欄に名前を書くのは初めてだ。
造影剤の合併症の欄が、やけに大きく感じられる。
予定は一週間後。造影CTで精査することになった。
造影CTを撮影する
そして迎えた造影CTの日の朝。
朝のカンファレンスでのプレゼンを終えた後、水を多めに飲みながら造影CTの時間が来るのを待つ。時間になったところで放射線部に赴く。
何度も何度もCT室に患者さんを連れて行くことはあったものの、自分が受ける立場でCT室に来たのは初めてだった。
「たくゆきじさーん」
技師さんが私を呼ぶ声が耳に届く。返事をしてよっこらしょと重い腰を上げる。
CT室に入り荷物をラックに置いた後、検査台によこになったところで技師さんから説明を聞く。
「点滴で造影剤が入ってから、かゆいところとか息苦しいとかあったら教えて下さいね」
その説明を聞きながら、右腕から点滴をとる。
20Gの針のはずなのに全然痛くない。上手な看護師さんがルートを取ってくれたようだ。
CT台に横になると、そこで初めて気がついたことがある。
今回のCTには「息を吸って…止めて…」という合図が目の前についているようだった。
何度も患者さんを寝かせたことはあったはずなのに。知らなかった。
おそらくかつて網膜には投影されていたはずだが、意識していなかったから脳には刻み込まれていなかったらしい。
検査が始まり、目の前の合図に従って息を吸って止める。
5秒くらいしたところで楽にする。
これを繰り返す。
途中で「では造影剤を中にいれますね」という声が耳に入る。
来た。ついにこのときがきた。
心臓カテーテル検査などで何度も造影剤を扱ったことがあるものの、自分の体内に造影剤が入った経験はなかったからやっぱり緊張する。
「頼む、アナフィラキシーは起こってくれるなよ。」
そんなことを思いながらピロピロピロという音とともに、右前腕から造影剤が体に注入される。
実際に造影剤が体の中に入ってくると、なるほどこういうことかと一人得心する。
私は造影剤が体に入る時、一気に体全体が熱くなるというイメージを持っていた。
造影剤は血液内にあっという間に溶解し、全身がいくらか熱くなってすぐに静まる。局在性はない。すぐに拡散するから。
こんなイメージを持っていた。
ただ実際に造影剤を注入されてみると、事前のイメージとはちょっと違う。
熱をもったスライムが、時間経過とともに移動するイメージだ。
右前腕から体内に注入された熱を持ったスライムが上大静脈に流入する。
そして右房、右室、肺動脈、そして左房、左室、大動脈へと駆け巡る。
造影剤スライムがその位置を変えると、その都度私が熱さを感じる位置も変化する。
造影剤はすぐには拡散せず局在性があるからこそ、時相によって複数回撮影し、追加の情報が得るわけなんだからこんなもんなんだなぁと妙に納得する。
そんなことを思いながら、息を吸ったり止めたりする動作を繰り返しているうちにいつの間にかCTは終わっていた。
お疲れさまでした。検査は終了です。
結果説明
今いる病院では造影CTを撮影したその日に放射線科の先生が読影してくれる。
おそらく「診断:肝血管腫疑い」と書かれた読影レポートを書いてくれるのだろう。というか書いてくれなきゃ困る。間違っても「診断:肝細胞癌疑い」なんてレポートだけは書かないでほしい。お願いだから。
怖い、怖い、怖い。
レポートを待っているときの私の偽らざる心境はこれだった。
消化器内科の先生から電話がなり、診察室へ赴く。
「造影CTの検査でも肝血管腫疑いでいいみたいですね」
あぁ…良かった。ホッと一息つく。
頭の中ではその確率は極めて高いとは思っていたものの、実際にこのように言われると本当に心の底からホッとする。その後のフォローアップについて相談し、今回の検査は終了する。
今までは基本的にこういう検査を受けたことがなかったので、今回は本当に緊張した。
患者さんの不安な気持ち、検査台に乗ったときのなんとも言えない緊張感、こういうことを自分の体で体験することができたのは本当に良い経験になったと思う。
この経験を今後の診療に活かしていきたい。
ちなみに余談ではあるが脂肪肝と言われたものの、その日の夜は祝杯がてらビールを大量に飲んでしまったことを最後に書き記しておく。
ホメオスタシスと体重に関する考察 ぬるくなってもまずくならないお茶を求めて 手術やカテーテルが終わった後にネクターを一気飲みするのは最高だと伝えたい。